著者 紹介

大熊 裕哉

新潟県新潟市

おおくま鍼灸マッサージ治療院

URL

http://okumachiryouin.com

 

鍼灸重宝記  本郷正豊著

中風 かぜにあてらるる

風者百病の長たり。其変化すること極なし。偏枯は半身遂はず、風痱は身に痛なく四肢収らず、風懿は昏冒して人事を知ず、風痺はしびれてふるふ。みな元精虎弱にして、栄衛調護をうしなひ、あるひは憂思をすごして、真気耗散じ、腠理密とじずして風邪に中る。

肝風は筋攣り、手足遂はず、汗出て風を悪む。

心風は発熱、舌強て言ず。

脾風は口ゆがみ、言渋り、肌肉不仁、心いきれ、心酔がごとし。

肺風は息づかひ苦しく、身緩り、声かれ、手足なゆる。

腎風は腰いたみ、骨節痠ひびれ、耳鳴、声にごる。

又、風、血脉に中れば口眼ゆがむ。府に中れば手足かなはず、身節痠すくむ。臓に中れば耳口鼻とどこをり、舌強り声出がたし。気虚は右の半身かなはず、血虚は左の半身かなはず。

卒中風は卒に倒れて発るなり。もし口開き、手撤り、眼合り、遺尿し、髪直たち、沫を吐き、頭を揺かし、直視、声いびきの如、汗出て玉のごとく、面青きは死証なり。

神闕・風池・百会・曲池・翳風・風市・環跳・肩髃、皆針灸して風を踈し、気を道く。中風には此八穴を第一にもちゆ。又いづれの中風にても腹をよく候ひみるに腹に塊あり。その塊りに針すべし。発て悩むときも、この塊に刺せば必しづまる。

卒中風には、天府・少商・申脉・人中に鍼。

人事を知ずは、中衝・大敦・百会。

口噤には、頬車・風池・承漿・合谷。

不仁には、魚際・尺澤・少海・委中。

百会・風池・大椎・肩井・間使・曲池・三里に灸。

人事を知ずは、中衝・大敦・百会。

口噤て言語ずは、針の穴と同じ。

不仁には、風市・肘髎・中渚・太冲・跳環・三陰交

 

痺痛

痺はみな気血の虚なり。栄衛しぶり、経絡通ぜざるゆへなり。曲池・風市。しびれる処に刺て血をめぐらすべし。

曲池、風市、痺れた部に鍼。風痺には尺沢、陽輔。痰痺には膈兪。寒痺には曲池、委中、風市。厥逆には列缺

 

痿(しびれ)

湿熱あり、痰あり、血虚あり、気弱きあり、瘀血あり、腎虚あり。

内関、肩髃、曲池、風市、陽陵泉に鍼する。

筋肉が養われず動きにくいところに鍼をして気を引き、血を動かす目的とす。

中瀆、環跳に鍼してとどめて気を待つこと4時間、三里、肺兪に灸すべし。

 

傷寒併熱病

汗が出なくて悪寒するものには、玉枕、大杼、肝兪、陶道

身熱し悪寒するものには、後谿。

身熱し汗が出て、足が冷えるものは大都。

身熱し、頭痛、食べても咽を通らないようなものには三焦兪。

身熱し、頭痛し汗が出ないものは曲泉にとる。

熱が出たりひいたりし、頭痛するものには、神道、関元、懸顱

背中に悪寒し、口の中に違和感がないものは関元に灸する。

風を悪むときは、まず風池、風府に鍼して、桂枝湯、葛根湯をもちいなさい。

汗の出ないものには、合谷、後谿、陽池、厲兌、解谿、風池。

身熱し、喘する(ぜいぜいする)ものは三間。

病が癒えたのに熱だけが残っているような状態には、曲池。

 

陽明の病、下血、うわごとをいい、頭に汗がでるものは期門に刺す。

太陽少陽の併病は、肺兪、肝兪、頭痛するものは大椎、結胸のような状態になって いるものは、大椎、肝兪に刺しなさい。

煩満し、汗がでないものは、風池、 命門に取ります。

汗がでて、寒熱するものは五処、攅竹、上脘を取ります。

煩心し、よく吐くものには巨闕、商丘を取 ります。

吐いたり下痢したり、掌がほてり、脉が強くうってこないものには少陰の経にある 太谿に灸しなさい。

半表半裏にある嘔吐は、厥陰に灸50壮しなさい。

咳逆するものには、期門に刺しなさい。

胸脇が満ち、うわごとを言うものには、期門に刺しなさい。

小腹が満ちおなかが痛い時には、委中、奪命の穴に刺しなさい。

腹が痛み、冷結が長く続き寒えがつきあげて心にいたり、死にそうなものには、委 中に刺しなさい。

陰証、小便が通じず、陰嚢が縮みあがり、小腹がいたんで死にそうなものには石門 に灸しなさい。

6、7日手足冷え、煩躁するものには厥陰兪に灸しなさい。

少陰病、膿血を下すものは、少陰の経の太谿に灸しなさい。

 

7、8日、熱が冷め、胸脇が満ち、うわごとをいうものには、期門に刺して、甘草 芍薬湯、もし癒えないものには、隠白に刺しなさい。

結胸は心下部が満ち堅くなり痛みます。期門、肺兪に刺しなさい。

熱病で汗のでないものは、商陽、合谷、陽谷、侠谿、厲兌、労宮、腕骨に刺しなさ い。同じく、熱病で高熱が続いて下がらないものには、陥谷に刺しなさい。

 

中寒 (ひえにあたる)

寒邪の侵襲による症状。

寒は天地殺厲の気たり。虚する者、これに中らるる則ときん

ば、昏冒、口噤み、四肢硬直し、攣急いたみ、悪寒、あるひは発熱、面赤、汗あり。あるひは熱なく、頭痛なく、手足冷。

あるひは腹いたみ、吐瀉し、涎沫を吐。あるひは戦慄して、面疼み、衣を引倦み、臥して、脉遅なり。

気海・関元に針灸し、或は腎兪・肝兪に灸す。倒れて意識がはっきりしない時は神闕に灸。

 

痎瘧 

がいぎゃく、現代でいうマラリアのこと。

夏暑に感じ即病ず、秋又湿風に傷られておこる。初は、悪寒発熱、づつうして、感冒のこととする。但、脉弦、手ふるえ、発病する時を異なりとす。

合谷・曲池・公孫・承満・大椎の頭に針二三本して、その針後に灸二十壮して奇効あり。

又三椎の上もよし。又いづれの瘧にも、梁門に針して奇効あり。久しき瘧には、承満・粱門のあたりに、瘧毋と云て、塊りあるぞ。是を針にて刺、くだきて効あり。

 

痢病(しぶりばら)

赤白ともに湿熱と作て治すべし。古へに腸澼といい、滞下というは、みな今の痢病なり。

脉滑沈小はよし、弦急は死す。もつはら血を下し、屋の雨漏のごとく、魚の脳髄の如なるは、皆死。

脾兪、関元、腎兪、復溜、長強、大腸兪、小腸兪、中脘、足三里、太谿に灸する。ほとんどのものは、気海、水分、天枢に鍼をすると奇効があります。どのツボも五分ほどづつ何回も刺します。深刺ししない。

 

泄瀉

胃泄は、胃虚して尅化せず、黄色にて食物とろけず。脾泄は、脾虚して五蔵に分散せざるゆへに、腹脹り、嘔逆す。大腸泄は、大腸に寒邪あるにより、食後に腸いたむ。小腸泄は、小腸いたみ、膿血をまじへくだして、小便しげし。大瘕泄は、裏急にして、しぶりて通じがたし、陰茎の中いたむ。五泄の證によりて治す。

関元・復溜・長強・腹哀・天枢に針。

三里・気舎・中脘・大腸小腸兪・脾兪・腎兪に灸。

 

霍乱

霍乱は嘔吐、下痢を起こす病気。暑い時期に冷たい物を取りすぎなどで寒熱の調和を崩し起こる。コレラや食中毒などが当てはまる。

腹脹、急にいたむときは、針をまづ幽門に刺べし。此穴に刺ば、かならず吐逆するぞ。しかれども痛増て、目など見つむることあり。苦しからず、さて気海・天枢に針すべし。

霍乱には、陰陵泉・支溝・尺澤・承山。

腹痛には、委中。

吐瀉には三里・関冲。

胸満悶、吐せずは、幽門に針すべし。

 

傷食

しょくだたり、今でいう食中毒。

飲食停滞すると、脾胃傷れ、腹痛み。吐瀉する。或いは悪寒、発熱、頭痛して傷寒の如し。

 脾兪・三里に灸。粱門、天枢、通谷、中脘に針すべし。

 

嘔吐

胃虚して吐する者あり、胃寒して吐する者あり、暑に犯さるる者あり、飲食に傷られ、気

結れて、痰聚り、みなよく人をして嘔吐をなす。

気海・風池・大淵・三里に針。胃兪・三里に灸。

 

膈噎 かくいつ( 翻胃 )

憂思、労気より生ず。噎とは、食飲くだらずして噎るなり。膈とは、喉のおくに何やらさわり、吐ども出ず、呑ども下らず。痰欝によつて気欝す。食をそのまま吐逆す。翻胃は、朝食する物を夕に吐し、夕に食して早朝に吐するは、病ふかくして治せず。

天突・石関・三里・胃兪・胃脘・鬲兪・水分・気海・臆譆・胃倉。

 

咳逆 (しゃっくり)

発逆(しゃっくり)は、気逆上衝して声をなす也。又、胃火上衝して、逆す。口にしたがひ膈より起るは、治し易し。臍下より上るは、陰火上衝のぼりつく、治しがたし。

期門に針し。脾兪・中脘・乳根に灸す。

 

喘促 (ぜり、すたき)

肺虚寒の喘あり、肺實熱の喘あり、水気肺に乗じて喘し、気滞り肺脹て喘し、気急の喘、胃虚の喘、陰虚、気虚、痰喘、其病を受ること同からず。

中府・雲門・天府・華蓋・肺兪に灸。中脘・期門・章門・肺兪に針。

 

痰飮 

それ痰は湿に属す。津液の化する所なり。痰の患ること、喘をなし、咳をなし、嘔をなし、暈(ぼかし)をなし、あるいは嘈雑(胸やけ)、動悸、驚き怖がり、寒熱し、痛み腫れ、痞塞壅(胸のふさがる感じ)、盛(さかんに)四肢不仁し、口眼瞤動き、眉稜・耳輪いたみ・かゆく、胸や脇に音あり。あるいは背の一部が氷のごとく冷え、肩首いたみ、咽にねばり付て吐ども出ず、呑ども下らず。みな胃虚して肺を摂することあたはず。あるいは四気七傷に犯され、気塞り、痰聚りて然らしむ。

不容・承満・幽門・通谷・風門・膈兪・肝兪・中瀆・環跳・肺兪・三里。

 

咳嗽 (しはぶき せき)

咳は声ありて痰なし、肺気やぶれて涼しからず。嗽は痰ありて声なし、脾湿その痰を動するゆえなり。あるいは風寒湿熱の邪に感じ、あるいは陰虚火動によって労咳をなし、水うかれて痰となり、みなよく咳嗽せしむ。

肺兪・肩井・少商・然谷・肝兪・期門・行間・廉泉に灸し、すべて不容・梁門に針す。

肺咳は大淵。脾咳は太白。腎咳は太谿。多く眠るには三里。面赤く熱咳には支溝。

 

諸気 (気の脉は沈なり)

經に曰、百病は気より生ず。喜で心を傷るときは、其気散じ、腎気乗ず。怒て肝を傷るときは、其気のぼり、肺気乗ず。憂て肺を傷るときは、その気聚り、心気乗ず。思て脾を傷るときは、其気結れ、肝気乗ず。恐て腎を傷るときは、其気怯く、脾気乗ず。暑き則は気泄、寒ずるときは気おさまる。もし、恬憺虚無、精神内に守れば、病何によってか生せむ。

肺兪・神堂・膈兪・肝兪・三里に灸。承満・梁門に鍼刺すべし。

 

欝証

気血通和すれば百病生ぜず。一つも結聚するときは六欝となる。気欝は腹脇脹満、刺すごとく痛みて伸びず、脉沈なり。血欝は大小便紅に、紫血を吐き、いたみ処を移ず、脉数濇なり。食鬱は噯気、呑酸、胸腹飽悶いたみ、不食、右脉盛なり。痰欝は喘満気急、痰嗽、胸脇いたみ、脉滑なり。熱欝は小便赤く渋り、五心熱し、口苦く、舌乾き、脉数なり。湿鬱は身節走いたみ、陰雨に遇へば発り、脉濡なり。

膏肓・神道・肝兪・不容・梁門。

 

癆瘵 ろうさい (虚労がひどくなった病)

癆瘵の証、ただ一端にあらす。気體虚弱し、心腎を労傷してこれを得たり。心は血を主り、腎は精を主る。精血かはき、相火たかぶりて、咳嗽、吐血、遺精、盗汗、悪かん、発熱、五心煩熱、食少く、嬴れ痩、日干しにはなはだし。この証、労虫ありて骨をくらい、相伝て親類を滅すを傳尸(伝尸)という。梁門をめぐりて幾度も刺す。患門・四花・膏肓・章門・気海・三里に灸。

 

吐血・鼻血

陽盛にして陰虚するゆえに、血下に行ず、炎上して口鼻より出るなり。或は、一椀ばかり吐て、別に煩いなきは、腹中の宛血あるおり、ふし熱の傷たるなり。くるしからず。

吐血は胃より出ず。全く血を吐く。先、痰を吐て、後に血を吐は積熱なり。先、血を吐て、後、痰をはくは陰虚なり。治しがたし。衂血、欬血は肺より出。唾血、咯血は腎より出ずる。

曲澤・神門・魚際。

嘔血は大淵・長強。

吐血は前谷・上脘・丹田・隠白・脾兪・肝兪。

鼻血は意喜・二間・風府・委中・合谷

咳血は肝兪・太淵

唾血は肝兪。

 

下血(血をくだす) 

風、寒、湿、熱が臓腑に入って脾胃をやぶったために、血が大腸に流れて下血とな ります。

腎兪、気海、陽関、関元、三陰交、絶骨

 

虚損 

元気がもともと弱かったり、日常生活が不摂生だったり、またあるいは、飲食労倦 したり、気を使いすぎたために、真気を損傷し発生した病です。

肉体的にやせる、目がかすむ、歯がぐらつく、髪が抜ける、遠い耳鳴がする、腰や膝の力が抜ける、 小便が頻回で、汗が沢山出る、またあるいは、遺精、尿の白濁、内熱、夕方の発 熱、口の乾き、咽の乾き、心神の落ち着きがなく、目がさえて寝ていてもねられ ず、小便が少ししかでず、遺尿があり、身体が寒を恐れ、鼻息が速く、めまい、物 忘れ、四肢倦怠などの症状をあらわします。

肺兪、肝兪、脾兪、腎兪、三里、膏肓へ灸 、梁門と中脘へ鍼を何回も刺します。

 

発散によらずして自ら出るを自汗といふ、陽虚なり。睡中におぼへず汗出るを盗汗といふ、陰虚なり。

盗汗には腎兪、自汗には脾兪・肺兪に灸すべし。合谷・曲池・湧泉・然谷に刺すべし。

 

諸熱

五蔵の熱證。肺熱すれば、皮毛熱し、喘咳寒熱す。心熱すれば、脉熱し、煩熱、心痛し、手の中熱す。脾熱すれば、肌肉熱し、夜はなはだしく、怠惰して、四肢収ず。肝熱は、筋熱し、寅卯の刻はなはだし、脉弦にして、多く怒り、手足熱して、筋なゆる。腎熱すれば、骨髄熱し、骨の中を虫くらふ、起て居られず。

諸經の熱證。面熱するは足陽明。口熱し、舌乾くは足少陰。耳の前熱するは手太陽。掌熱するは手三陰。足の下熱し、いたむは足少陰。身熱し、肌いたむは手少陰。洒浙として寒熱せば手太陰。中熱し、喘するは足少陰。身前熱するは足陽明。一身熱し、狂乱し、譫

言は足陽明。肩背・足の小指の外熱するは足太陽。肩の上熱するは手太陽也。晝熱するは、熱、陽分にあり。夜発るは、熱、陰分にあり。晝夜同しく熱するは、熱、血室に入り、重陽無陰なり。陰をおぎなひ陽を瀉すべし。

梁門・承満・天枢・気海、針いくたびも刺てよし。又、尺澤・委中より血をとる。

 

健忘・怔忡・驚悸

精神短少なる者、心をもちゆることを過し、恍惚として、多く事を忘るるを健忘といふ。怔忡は心中惕々として跳動す。驚悸は驚怖して寧からず、人の捕んとするがごとし。みな心脾の虚損なり。或は、痰、心竅に迷て事をわするる者あり。

膈兪・肝兪・肺兪・脾兪・腎兪へ灸。

神門・大陵・巨闕・上脘・三里へ鍼。

 

眩暈 (めまい)

諸の眩暈はみな肝に属す。風邪上り攻、痰雍りて眩暈をなし、あるひは気虚失血、あるいは陰虚火動、みなよく此証をなす。風眩は脉浮にして汗あり。痰は脉弦にして滑なり。

上星・風池・天柱・臨泣・風府・陽谷・中渚・梁門へ鍼。

上星・顖会・前頂・百会・風門・厥陰へ灸。

 

中悪 (あしきものにあてらるる)

中悪とは人の精神衰へ弱して、鬼邪の気、卒に中るゆへなり。其かたち、卒然として胸腹刺ごとく痛み、悶乱して死す。あるいは吐血するもあり。先、幽門・百会・関元・気海に灸し、安息香を豆粒ほど火に入、煙を呑すべし。

 

癲癇

癲癇は元、母の胎内に在て、驚を受く。五種あつて、五蔵に応ずといへども、心の一蔵に帰す。驚ときは、神舎を守らず。舎、空き則ば、痰涎、心竅に迷ひ、ふさぎ、たましゐ出入せざるによりて、卒に倒臥て、手足びくめかし、口眼引つり、あるひは、さけびよばはり、沫を吐く。暫にしてよみがへる。

大椎・水溝・百会・神門・金門・巨闕・崑崙・筋縮・湧泉へ鍼。

百会・鳩尾・上脘・陽蹻(ひるおこる)・陰蹻(よるおこる)に灸。

 

狂乱 (きちがい)

狂はくるい、みだれて、正く定ならざる也。あるいは痰火実盛、あるいは心血不足にして、憂驚によつて志をうしない、此証をなす。喜で笑は、心火盛なる也。

尺澤・間使・天井・百会・神門・中脘へ鍼。

承山・風池・曲池・尺澤・神門・上脘へ灸。

 

諸虫 (もろもろのむし)

虫は湿熱より生ず。腐草、蛍となるがごとし。その証、嘈雑、腹痛、涎沫を嘔吐し、面の色痿黄、眼眶・鼻の下青黒く、食少く、色黒く、痩、あるいは、寒熱、咳嗽せしむ。

九虫は、

一に伏虫、ながさ四寸、諸虫の長なり。

二に蛔虫、長さ一尺。動くときは清水を吐き、出るときは心痛す。もし心をつらぬくときんば人を殺す。

三に寸白虫、長さ一寸。動くときは、腹痛、腫聚り、清水を吐き、上下り、おこりざめあり。心を傷るときは死す。

四に肉虫、ただれたる杏のごとし。人を煩満せしむ。

五に肺虫、蚕のごとし。人をして咳嗽せしむ。

六に胃虫、かわづに似たり。吐逆、噦をする。

七に弱虫、瓜のなかごのごとし。多く唾を吐く。

八に赤虫、生の肉のごとし。腸を鳴しむ。

九に蟯虫、細にして菜虫のごとし。疥癬、痔、瘍瘡を生ず。

 

千金方に曰く、五蔵労するときは熱を生ず、熱するときは虫を生ず。心虫を蚘と云。脾虫を寸白と云。肺虫はかいこのごとし。肝虫は李のごとし。腎虫は寸々に切たる線のごとし。三虫は長虫・赤虫・蟯虫なり。諸虫みな、上半日は頭を上にむかふ

凡そ諸虫を治するに、寒熱虚実を察し、脉をわきまへつまびらかにして針を行ふべし。

三陰交・三里・内関・陰谷・行間・太白・復溜・気海・脾兪・梁門・天枢・滑肉門。

 

積聚 はらのかたまり

肝の積を肥気といふ。左の脇にあり。面青く、両わきいたみ小腹に引。

心の積を伏梁といふ。臍の上におこり、胸の中に横たへ、腹熱し、面赤く、胸いきれ、咽かはき、不食し、やせて、吐血す。

脾の積を痞気といふ。臍の真中のとをりにあり。面の色黄にして、飢るときはかくれ、飽ときはあらはる。常に腸ふくれ、足はれ、泄瀉、嘔吐し、痩おとろふ。

肺の積を息賁といふ。右の脇にあり。面白、背いたみ、膚冷、皮の中時にいたみ、虫のはふがごとし。

腎の積を奔豚といふ。小腹にあり。おこるときは胸にのぼり、面黒く、飢るときはあらはれ、飽ときはかくるる。腰いたみ、骨ひゑ、目くらく、口かわく。

積に腹痛あり、痛まずして塊ありて不食するもあり。或は咳逆、咳嗽、短気、心痛をなす。腹痛するときは、猥に痛処に刺べからず。まづ、積ある処をよくおし、やわらげ、其後いたむ処より一二寸ばかりわきに針すべし。若、痛みつよきとき、むさといたみのうへに刺せば、かへつて痛みまし、人を害すこと多し。積にかまはず、わきをやわらげて、気を快くするときは、おのづから治す。

三里・陰谷・解谿・肺兪・膈兪・脾兪・三焦兪・期門・章門・中脘・気海・関元。

 

黄疸

五疽の分ありといへとも、皆これ脾胃、水穀・湿熱、相蒸ゆへに、黄を発する也。胸腹飽悶、身面目みな黄、小便黄渋、汗の衣を染ること黄栢の汁のごとし。たとえば、麹のごとし。湿と熱とたたかい、気ととのわざれば、欝して疽となる。

承満・梁門にいくたびも針刺すべし。

天枢・水分・気海・膈兪・肝兪・膽兪・脾兪・腎兪・胃兪に灸すべし。


水腫 (はれやまい)

内経に曰く、水腫その本は腎にあり、そのすゑは肺にあり。みな水のつもりなり。故に水病は、下腫れ、腹大きに、上喘急をなし、臥ことを得ず。先、腹よりはれ、後に手足はれるは治すべし。まず、手足より腫れ、後に腹はるるは治せず。もし、肉かたく、掌たいら

かなるは治せず。

膈兪・肝兪・膽兪・脾兪・腎兪・通谷・石関・水分・天枢・気海へ灸。

胃倉・合谷・石門・水溝・三里・復溜・四満・曲泉へ鍼。

 

渾身浮腫は曲池・合谷・三里・内庭・行間・三陰交。

水腫は列缺・腕骨・間使・陽陵・陰谷・解谿・公孫・厲兌・冲陽・陰陵・胃兪。

四支浮腫ば曲池・合谷・中渚・液門・三里・三陰交。

風腫身浮ば解谿。

遍身腫満、飲食化せずは腎兪百壮、即治る。

 

脹満 (かめばら)

腎を水とし、脾土を堤とす。故に脾腎虚するときは腫脹をなす。遍身はるるを水腫とし、腹ばかり大にして鼓のごとく、面目手足腫ざるを脹満といひ、蠱脹ともいふ。脉洪大はよし、徴細はわろし。

上脘・三里・章門・陰谷・関元・期門・行間・脾兪・懸鐘・承満・復溜へ鍼

三里・章門・脾兪・承満へ灸。

水脹脇満ば陰陵泉。水分に刺を禁ず。

 

消渇 (糖尿病)

上消は邪熱、肺を燥して、多く水を飲、食すくなく、大小便つねのごとし。中消は胃熱し、脾陰虚す。飲食ともに多く、小便赤し。下消は腎虚し、水乾く。多く水をのみ、小便膏の如くにしてしぶる。

水溝・承漿・金津・玉液・曲池・太冲・行間・労宮・商丘・然谷・隠白。

腎兪・中膂・意舎・小腸・膀胱・関元へ灸。

中膂・意舎・照海・曲池・曲骨へ鍼。


淋病 (小便閉)

淋は小便しぶり、痛むなり。熱、膀胱に客とし、欝結して滲泄すること能はざるがゆえに淋をなす。

五種あり。熱淋は小便赤くしぶり、痛みはなはだし。沙石淋は茎中いたみ、努力ときは沙石のごとし。気淋は小便しぶり、痛み、つねに餘瀝(残尿感)ありて尽ず。血淋は尿血結熱して、茎痛をなす。膏淋は尿、膏【動物の油)に似たり。労淋は労倦すればすなはち発る。又、色欲すでにき

ざして強留て泄さず、小便急に乗じて溺を忍ゆれば多く淋を致す。

関元・夾溪・三陰交に針。

腎兪・膀胱・小腸・中膠・三陰交に灸。炒塩を臍中に填満て、大艾炷七壮すべし。

陰寒甚して小便通ぜす、陰嚢縮入、小腹痛み、死せんとするには、石門に灸す。


溺濁 (いばりにごる)

赤濁は血に属す、思慮を過し、心虚して熱するなり。白濁は気に属す、房労をすごし、腎虚して寒ずるなり。

腎兪・気海・関元・脾兪・三里・三陰交。


遺溺 (いばりたれ)

凡そ、遺尿は小腸・膀胱の陽気衰へ、脱するゆへなり。経に曰く、膀胱利せざれば癃をなす、約せざれば遺をなす。又曰く、下焦に血をたくはへ、虚労し、内損すれば、小便おのづから遺て知す。下焦虚寒し、水液を温制することあたはざれは、小便たへずながれいづる。

腎兪・気海・小腸兪・絶骨・三里・関元


遺精 (妄想をみる)

夜夢に人と交り、感じて精を泄すを夢遺という。夢に因ずして、精おのづから出るを精滑という。心腎内虚に因て、固く守ることあたわず。みな、相火動ずるゆへなり。又、久しく交合せず、精満て溢るものは病にあらず。

脾兪・肺兪・腎兪・気海・三里に灸。

関元・曲泉・然谷・大赫・三陰交に鍼。 

 

秘結 だいべんつうぜず(便秘)

風秘は風痰、大腸に結して通ぜず。風を発散すべし。気秘は気とどこをり、後重せまり、いたみ、煩悶、脹満す。気をめぐらすべし。寒秘は腹冷、痃癖、結滯す。温補すべし。虚秘は津液虚し、血少くして、かわき渋る。潤し滑にすべし。熱秘は實熱、気ふさがり、心満、腹脹り、煩渇す。熱をすずしくすべし。

肝兪・膽兪・腎兪・大腸兪・関元に灸。

天枢・滑肉門・石門・陰交・承山に鍼。


痔漏 (いぼぢ・あなぢ)

尻の穴に瘡を生じて傷れず、あるひは傷ても少にして愈やすきを痔という。瘡潰て竅を作し、膿血出て、愈えがたきを漏という。

痔に六種あり。

牡痔は肛門の邊に肉珠を生じて、鼠の奶のごとくにてうみ血を出す。牝痔は瘡を生じ、腫いたみ、四五日にうみ潰て即ち散る。脉痔は尻の回りにつぶつぶと生じ、いたみ、かゆく、膿血を出す。腸痔は肛門の中に結核を生じ、血を出し、寒熱往来し、溷(濁る意)に行ごとに脱肛をなす。血痔は大便に清血を下すこと止ず。酒痔は酒をのむごとに瘡出、血をながす。

百会・気海・腎兪・大腸兪・長強・膀胱兪・三陰交に灸。

秩辺・委中・陽輔に鍼。

血痔には承山・復溜。腫痛には飛陽。漏には長強・商丘・承扶。


脱肛

肛門の飜出ずるなり。肛は大腸の門なり。大腸は肺の府なるによつて、肺実すれば秘結し、肺虚寒すれば脱出す。又、経に曰く、腎は穴を二陰にひらくと。故に腎虚する者、多くこの症あり。

命門兪・腎兪・長強・百会・膀胱に灸。


頭痛 (かしらいたむ)

頭は諸陽経の首也。風寒の頭痛は鼻塞り、悪かん発熱す。湿は頭重し、食滞は額の正中いたむ。左邊痛は気虚、右は血虚、夜痛み苦し眉輪骨いたむは痰火なり。真頭痛は脳巓いただきの底に通り、痛みはなはだしく、手足冷、臂とひざより上までひへ上るは、半日に死す。

百会・風池・風府・合谷・攅竹・曲池・腕骨・京骨・合骨・衝陽・風市・三里。

頭重く鼻塞るには、百会に刺すべし。

目眩き、頭のかわ腫には、前頂に刺す。

項強り、悪寒せば、後頂に針すべし。


痃癖(肩こり)

肩の痛むこと、或は痰により、或は風寒湿によるといへども、多くは気血つかへたるゆへなり。このところに刺すこと秘伝あり。まず、手にて肩を押ひねり、撫なでくだし、気を開かせて、後に刺すべし。深きときは、あやまちあり。若、みだりに刺ときは人を害ころす。これを刺には、針をふして皮肉の間をとをすべし。少も肉を刺ことなかれ。

肩背には撚ひねり針を用べからず、砭針をもちゆべし。管に入て、はじき下し、皮をやぶりて気血をぬく。その効、速かなり。針を刺たるあとを、又、管にて推べし。かならず血出て邪気さるなり。上古には石の尖にて痛み痺るところを刺し、脉をやぶり邪をさる、鍼經に砭石をもつて膿血を出すとあり。


手指

手の痛は痰により、風湿による。老人は気血衰弱して、肢てあしをやしなはざるゆへなり。かいなの骨節ふとり、大にして、節間ほそくなり。指も亦かくの如くなるは、痰と血の不足なり。

曲池・手三里・肩髃・列缺・尺沢。


心痛 (むねいたみ)

心痛に九種あり。虫痛、[疒+主]痛、風痛、悸痛、食痛、飲痛、寒痛、熱痛、去来痛也。厥心痛は、寒邪、心包絡に客たり。真心痛は、寒邪、心の蔵を傷る。痛みはなはだしく、手足青くして、臂膝を過るは半日に死す。

胸の中、刺がごとくいたみ、手足ひへ、唇青く、脉沈なるに大谿に刺してよし。胸中、満ふくれ、いきどをしく、缺盆より引つり痛み、死せんとするは、行間・尺沢に刺てよし。

胸つよくいたみ、死せんとするには然谷・湧泉に刺す。

神門・健里・大都・太白・中脘に撰刺。厲兌・鬲兪・肺兪・大谿・中脘・下脘・三里に灸。


腹痛( はらのいたみ)

腹痛に九種あり。綿々として増減なきは寒也。たちまち痛たちまち止は熱痛なり。食するときは腹痛み泄して、後に痛減ずるは宿食なり。時に痛み、時に止み、面白く、唇紅にして、飢るときは痛みはなはだしく、食するときはしばらく止ば虫痛なり。痛むところ移らざるは死血なり。

脇下に引いたみ、聲あるは痰飲なり。手にて腹を按に軟に痛やはらぐは虚なり。腹硬く、手にて按ときは、いよいよいたむは実痛なり。

いづれの腹痛にも、先、腹に針灸すれば、かえって痛みますものなり。必まづ足の穴に針灸して、痛み和ぎてのち腹に刺すべし。尋常のかろき腹痛には、まづ腹、滑肉門を重く押へて刺すべし。もし腹痛はなはだしく、目眩き、死せんとするには隠白・湧泉に針して正気を付べし。

上脘・中脘・巨闕・不容・天枢・章門・気海・崑崙・大白・大淵・三陰交。


脇痛(わきいたみ)

両脇痛は肝火盛に、本、気実するなり。咳嗽して、いたみ走注し、痰の声あるは痰なり。左の脇に塊ありて痛処を移さざるは死血。右の脇に塊ありて飽悶するは食積なり。肝積は左に在、肺積は右にあり。

日月・京門・腹哀・風市・章門・丘墟・中瀆・期門に鍼。

肝兪・絶骨・風市に灸。


腰痛 (こしのいたみ)

腰は一身の大関、六經の懸るところ。太陽腰痛は項脊尻に引、せなか重し。陽明の腰痛は左右へかへりみられず、強り、かなしむ。少陽の腰痛は針にて皮をさくがごとし、俛仰ならず。大陰の腰痛は熱して、腰に横木あるが如く、遺尿す。少陰の腰痛は張弓のごとく、黙々として心わろし。脾に熱たたかふときは、腰痛み、俛仰せられず、腹満て泄す。腎に邪熱あれば、腰痛み、脛しびれ、舌かはく。又曰く、腰は腎の府、多くは色欲を過し、腎を労傷すれば、常に腰を痛ましむ。日軽く夜重きは瘀血なり。陰雨に遇ひ、久しく坐して発るは湿なり。腰背重、走注串つらぬき痛は痰なり。頭痛、悪寒、発熱するは風寒による。腰冷るは中寒なり。

腎兪・膀胱・腰兪・志室・崑崙に灸し。崑崙・肩井・環跳・陰市・三里・陽輔に針。委中より血をとるべし。両腿水のごとく冷、腰脇肋あばらいたむは尺沢・三陰交・合谷・陰陵・行間・三里・手三里。腰痛動がたきは風市・委中・行間。腰脊強痛には腰兪・委中・湧泉・小腸兪・膀胱兪。


痛風 (つうふう)

痛風は、遍身骨節、走注していたむ也。気血虚弱し、風寒湿に感じ、或は、痰、経絡に流れ注ぎ、関節利せず。

百会・環跳に針刺べし。

肩臂いたまば、肩髃・曲池に灸すべし。

脚気 あしのいたみ

男は腎虚、女は血海の虚よりおこる。或は、風寒暑湿をうけて生ず。走りいたむ所、さだまらざるは風なり。筋、拘急してひきさく如に痛は寒なり。腫て重きは湿なり。手足ねまり熱し、燥渇かわきて、便実は暑熱なり。骨節、大きになり、節の間ほそくなるを鶴膝風と云。治しがたし。脚気腹に入ときは大事なり。

三里・三陰交・風市・外踝・内踝に灸。

公孫・衝陽・委中・懸鐘・飛陽に鍼。又、痛む上に針を刺すべし。

 

疝気 せんき(下腹部から陰嚢の痛み)

凡そ疝気は、湿熱、痰積、流下て病をなす。或は虚寒により、食積によつて発る。みな肝經に帰す。宜く肝經を通ずべし。又、腎經を干

おかすことなかれ。

七疝の症。

・厥疝は心痛し、足冷、食を吐く。

・瘕疝(かせん)は腹中に気積みかたまり、臂のごとし。

・寒疝は冷たる食を用ゆれば、にはかに心腹ひきいたむ。

・気疝は、忽たちまちにみち、忽に減じていたむ。

・盤疝は腹中いたみ、臍の旁にひく。

・附疝は腹いたみ、臍の下につらなり、積聚あり。

・狼疝はほがみと陰へ引痛む。

天枢・大衝・大敦・腹結・気海・関元・石門・滑肉門・三陰交に鍼。

章門・三陰交・大敦・気衝・肝兪に灸。

・秘灸

病人の口を合がしめ、口のひろさの寸を三つとり、それを三角に△此の如くして、上の角を臍の下廉にあて、下の両角に灸すること左右各二十一壮すべし。七疝ともに奇妙なり。

・陰卯(ふぐり=陰嚢)偏大なるは、関元に灸百壮すべし。

 

眼目

目は肝の外候、五蔵の精華にして、諸脉は皆、目に属す。鳥睛ひとみは肝木、両眥めがしらめじりは心火、上下の[目+包]まぶたは脾土、白睛

しろまぶたは肺金、童子くろまぶたは腎水の精なり。暴にわかに赤腫痛は肝經の風熱。久病昏暗は腎虚。遠く視ことあたはざるは心虚。近視ことあたはざるは腎水の虧(か)へりたるなり。

巨骨・膏肓・曲池・肝兪・脾兪・三里に灸。

神庭・上星・前頂に鍼。

・熱血、目赤きには絲竹空・百会・上星。

・眥痛み、涙出で、明ならずは風池・合谷。

・とり目には睛明・攅竹。

・疳目には合谷(各一壮)。

・赤くただるるには陽谷・太陵。

 

耳病

耳は腎に属して、竅を少陽の部に開。会を手三陽の間に通ず。腎に関かり脳を貫く。故に腎虚するときは耳聾して鳴る。両耳腫痛み、あるいは膿を出すは、腎經の風熱なり。口苦く、脇痛み、寒熱往来は、少陽膽經の風熱。左の耳聾は、忿怒(いかり)、膽の火を動す。右の耳聾するは、色慾相火を動ず。両耳倶に聾するは、厚味胃火を動ず。あるいは、気によつて閉る者あり。あるひは、痰火に因て耳鳴ものあり。小児耳腫、耳痛、耳停

だれは三陽の風熱なり。各証を詳にして治すべし。

腎兪・百会に灸。耳聾鳴には聴会(五壮)。耳聾・耳痛は、翳風(七壮)、耳門(三壮)。

陽谷・前谷・液門・商陽・少海・聴宮・肩貞、に鍼。

 

鼻病

鼻は肺の候なり。和するときは、よく香臭を分別す。若し、七情内に欝し、六淫外を傷り、飲食労役して、鼻気調はず、清道ふさがりて病をなす。鼻塞り、濁涕を流すは熱邪とし、清涕みずばなを流は寒邪とす。香臭を聞ざるは肺に風熱あり。濁涕、あるひは清汁をながして止ざるを鼻淵といふ。乃、風熱、脳をやぶり、脳気固からずして、液をのづから滲る也。臭き膿水ながれ出るを脳漏といふ。面(顔)白く、清涕をながし、

香臭を聞ざるは肺虚なり。鼻赤きは熱血肺に入る。酒齄鼻といふ。鼻頭、紫黒きは風寒によつて、血冷、凝滞て散ぜざるなり。みな、症を詳にして治すべし。

百会・上星・肺兪・風門。鼻塞るは上星・臨泣に針し、上星(七壮)・百会・厲兌・前谷に灸すべし。清涕は人中・上星・風府(又、風門に灸)。脳漏、臭き涕出ば曲差・上星。久病、涕ながれて止ずは、百会に灸して妙なり。息肉は迎香。衂血(鼻血)は風門・風府・風池・合谷・二間・三間・後谿・前谷・委中・申脉・上星・三里。鼻瘡は上星・百会・風府。

 

牙歯 (きば・はのやまい)

夫、歯は骨の餘り、腎これを主る。上の前歯は督脉に属し、下の前歯は任脉に属す。両頥おとがいの歯ぐきは手陽明大腸、下齦は足の陽明胃の經これを絡ふ。風を呷(すう)ときは、痛みはなはだしきは腸胃に風邪あり。腫痛は陽明の風熱。臭く穢けがらわしきは腸胃に熱あり。動き揺ぐは腎元の虚なり。血火に遇うときは沸出て宣露る。熱極り、歯の縫より血出るは虚熱なり。蛀牙は竅あり、腸胃の湿熱なり。走馬牙疳は即時に腐落る。真

陰いまだ成ずして熱さかん也。

少海・合谷・内庭・四瀆・上廉・大淵・三間・浮白・陽白。歯痛ば商陽。牙痛は陽谿・少海・曲池・陽谷・二間・厲兌。上牙痛には人中・内庭・大淵・呂細・少海・三里。又、肘の上、肉の起るところに灸して妙なり。下歯いたまば、龍玄(奇穴。側腕交叉にある=前腕橈骨遠位端、橈骨茎状突起の上、静脈部にとる)・承漿・合谷・三間。又、腕くびより五寸上、両筋の間に灸五壮して妙なり(神応経に記述されていた)。血熱胃口にあり、咽歯に引きいたむには浮白・内庭・合谷。頬腫れ牙いたまば、頬車・曲池。虫牙にはいたむ牙のとをりの齦に刺べし、妙也。虫喰牙にて瘡を生じ、ただるるものは、承漿に灸七壮すべし。牙疳は承漿に針灸。

 

唇病

經曰く、脾の栄は唇にあり。唇瞤は風なり、乾は燥なり、裂(さくる)は熱なり、掲(そる)は寒なり。唇腫裂、あるいは瘡を生じ、米泔(しろみず)のごとくなるは瀋といふ。脾経の風熱也。唇緊口小さくなるを、緊唇といふ。又、中気虚損して唇口瘡を生ずる者あり。又、陰虚火動して唇燥裂て繭(かいこ)の如なる者あり。

唇乾、液あるは下廉。唇乾き、食下らざるには三間・少商。唇動き、虫の行がごとくなるは水溝。唇腫は迎香。緊唇は虎口を灸す(男は左、女は右)。又承漿に灸三壮すべし。

 

口病

經に曰く、脾気は口に通ず。肝熱すれば口酸し。心熱すれば口苦し。膽熱するときも口苦し。脾熱すれば口甘し。肺熱すれば口辛し。腎熱すれば口鹹し。口臭きは内熱。口乾き、口瘡は脾熱。

口乾は尺澤・曲澤・大陵・二間・少商・商陽。口噤には頬車・支溝・外関・列缺・厲兌・内庭。口眼喎斜(ゆがま)ば頬車・水溝・絲竹空・列缺・太淵・合谷・二間・地倉。

 

舌病

舌は心の苗也。又、脾の經絡、舌の本に連る。惟(ただ)舌の下、廉泉の穴は腎經に属す。故に心熱すれば舌腫、瘡を生ず。心脾、熱を重て、舌腫て言語ず。心脾虚して風熱をうけ、気欝して重舌を出す。心脾熱して、舌胎を生ず。肝ふさがれば血を出す。上に欝熱をたくはゆるときは口舌のやまひを生ず。

舌緩(ゆるまる)は太淵・合谷・冲陽・内庭・風府・三陰交・崑崙。舌強は亜門・二間・少商・魚際・中冲・陰谷・然谷。舌黄は魚際。

 




婦人科

月経不順

気海、三陰交、中極、帯脈

※灸する場合は1壮を超えてはならない。

 

月経出血多量

通里、行間、三陰交