著者 紹介

大熊 裕哉

新潟県新潟市

おおくま鍼灸マッサージ治療院

URL

http://okumachiryouin.com

 

鍼灸弁惑  藤秀孟郡子著

奇穴なのか別名表記されているのか聞いたことのないツボが多く書かれています。分かり次第つけ足していきます。

刺法論

 

鍼家に刺すこと捻るころの異なるあり然るして諸々の鍼経(霊枢)を按ずるにみな刺して動かすことなかれと云て刺を以って良とす。

黄帝、皮を破り腠理を開くころを問う。

岐白答えてその分肉によって別れしその層を左少し入れて、そして徐々にそれを端せばまさに神散ぜず邪氣去る得ることを云えり又、云く伏すること横怒の如く起きること如し、発機の如し、又云く手虎を握る如し、その壮んならんこと欲するなり。また云く義邪を下すこと無かんと。この衆説みな刺を行うときに一息の留滞なく呼吸に従って正しく刺すの形と言える。

それ鍼に許多の手法あり云うとも総括してこれを論すれは邪気を去って生気を復するを至要とす捻る時は鍼先動揺す鍼先動揺すれば鍼孔大いに開く鍼孔大いに開けば気脈発泄す。気脈発泄すれば醒神虚耗す。

故にそれを刺して、そして気至ればすなわちそれを去ってまた鍼することなかれと云い、これただ一般の病を刺すことこの如しいわんや骨を刺すものは筋を傷ることなかれ筋を刺すものは肉を傷ることなかれ肉を刺すものは脈を傷ることなかれ脈を刺すものは皮を傷ることなかれ皮を刺すものは肉を傷ることなかれ肉を刺すものは筋を傷るなかれ筋を刺すものは骨を傷ることなかれとありこれ。その邪の所在のみを刺して他に及ぼさざらしめんが為なり。

古書の捻ってそしてそれを擦り推してそしてそれを揉むなんど、入れるは鍼を順下せしめんことを思ってその形状を模写したるものなり後世これを誤って手法なりと意得て刺を行うにみな撚ってこれを入れ撫でこれを下す故に鍼先肉中にあって動揺するに従い邪氣と元気と相打って鍼先に着き出入り自由ならず痛みを発し肉を損じ大いに害を生ずることありよく刺すものは筋にても骨にてもその邪氣の所在を原子直ちに刺して血肉を損傷することなきを以って速やかに効を奏す。

鍼法の書中に刺斉刺禁熾刺志刺幣等の篇目みな刺を以って題するを見るべし又撃刺を行うものあり自らこれ一家の法なりと云えどもその鍼先太くして痛みに堪えざるを以って遠きに達すること能はずかつ虚人小児などはその撃つ声を憎み恐れるものありその用は便捷なるに似たれども皮膚の病を治すべし腑臓を患を除くに堪えずと云うべきかただ刺の法のみ遠近に達し表裏に通じ肥痩堅脆男女長幼施すとして不可なるはなし脳を刺せども髓を傷らず骨を刺せども肉を損ぜすよく用るものは百病を治す庸工もなお害を生ずることを免れる鍼家の要法と称すべし。

当詳病源論

 

大よそ鍼を用いるものは病に臨むごとに必ずまずその病因を詳しくし病症を明めんことを要す一身の精華は面上に現し腑臓の偏気は五音に発すこれを観察して後に病のよって来る所以を問うべし。

人に貴賎あり家に貧富あり身に労佚あり居所の燥湿飲食の美悪みな以って同じからず百病一気の留滞より生じ寒熱虚実の四つを出でず然れども中毒邪崇の症の如きは不虞の災いと云うべし、かつそれ婦人に至りては経水の通不通よりして百千の異病を生ずよくよくその所因を詳明にせずんば何ぞ肯綮に中らんや古来汗牛充棟の書その論は聴くべしと云えども、その法に泥むべからず何ぞなれは人の一身を以って五行に配当しこの理かの理と謂って施すことなきの空言多し人身は動物なり。

理を以って論ずべきものにあらず、ただその外より感ずると内より傷るとを推したって邪氣を去り正氣を復するを以って専要とすべし脈を診するは寒熱虚実を知らんがためなり。


脈の名目多分なりと云えども浮沈遅数の四つを以って宗とす数十の脈状を分知すともその病を去るの術を得ずんは何の益かあらん脈はただ血氣の周流すると留滞するとを伺うものなりと意得べしこれを以って古人も刺家診ず病者の言うことを聴くと説りこれ強ちに脉法を廃するには、あら子供庸工の一概に脈に拘泥せば却てこれを以って誤治せんことを察してなり今世俗目を捨てて耳を信じるもの多し故に鍼を用いるもの病家に到り巳が術の精妙を知らんがために、顏色を察せず声音を聴かず内外因を推問せず怱卒に両手を執りて三部を按じ眉をひそめて鼻を酸じ脾胃傷損せり腎水虚敗せり、なんど人の左もありなんと思うころを説話して狐媚誑惑をなして以ってその技を売るに至る神といい聖というろも僅かに一指を以って輕重に按下し腸胃の損傷周身の痛痒を察すべけんや古人の論説取るべきものあり、取るべからざるものあり孟子の所謂、書無き如かずの言。これなり古人も見識あるものはこれを知らざるにはあらじ想うに越人が六不治の症を論じして医を信じざる巫を信じた者死すと云へり。

病を治せんと欲せばよく信じられて後にその功を施すべし。民命を以って重しとするが故にこの如く診法脈状を説いて丁寧を示すと見えたり、ただよく病を感ずる故に患の所在を詳明にして刺を行うべきものなり。

 

刺法浅深論

 

それ刺を行うに栄を刺して衛を傷る無かれ、衛を刺して栄を傷ること無かれとあって栄衛とは陰陽を云えり故に難経にも陽を鍼するには鍼を臥せてこれを刺し、陰を鍼するにはまず左の手を以って鍼する所の穴を按ずること良久しふしてその気を散ぜしめて然るして鍼を入れると云う。


春夏は陽気浮かんで上る人の気もまた然りこれを刺すには浅くすべし。その大過なからんが為なり秋冬は陽気沈んで下る人の気もまた然りこれを刺すには深くすべしその不及なからんが為なり。

然れどもこれは時令の気を論ずるの大意えて強いて拘泥すべからず、ただその皮肉骨髓筋脈病の所在を探りあるいは浅くあるいは深く機に臨み変に応せんことを要す過ぎる時は内を傷り及ばざる時は外を塞ぐその法を失すれば大賊をなして却って病を生ず慎んでかつ恐れざらんや。

然るに近世鍼を業とするもの病の所在を論ぜず病者の意に従い痛まざるを善しろして、ただ皮を刺して止むものあり、或いは己が高技を衒うが為に長鍼を以って肉を刺し骨を貫き児女を驚嘆さしめて世に誇るものあり。嗚呼これ何の意ぞや病んで治を求むるは患を除かんか為なり。

阿従と誇矜ち病患を蠲除するの方法ならんや、たとえ民人をして知ることなかしむともそれ天誅をいかんがせん刺を行うに浅く刺して痛ましめざるも、深く刺して痛しむるも、みな刺家の治法にして血熱頭風などの症はわずかに鍼を下すこと一、二分にして或いは汗を得て、或いは血を去りて止め卒厥気絶の病は深く刺して痛みを覚えて正氣を喚起するを以って法とす。

年に少壮あり、皮に厚薄あり、病に遠近あり一概に論じがたし。ただ病を駆り邪を除いて止むこれを好手と称すべし。

 

補瀉迎随論

今世鍼を業とするもの古書一向に信じべからすいかんぞなれは、それの病にそれの穴を刺しその病にその兪を刺すとあるを以ってその兪穴を刺せども、かつてしるしあることなし、これその穴の廃せるかその言の騙すたるか共に鍼家に益なしと云うものあり。

これ全く穴の廃せるにもことの騙すたるにもあらす。

補瀉と迎随とその法にかなはざるによってそのしるしなきなり、それ刺を行うには補瀉迎随左右前後の法あり、もしこれを知らずして妄りに兪穴のみを論じて罪を古人に帰する又はなはだ誤まれるならずや古人にも補瀉の道理を心得違い鍼は瀉あって補なしと云うものあり、鍼法の補瀉と云うは刀圭を執るもの、参附硝黄などを用いるが如き補瀉の謂いにはあらず刺して賊邪を駆りセイ癖を去るが瀉なり。邪氣を駆り去れは正気の回復するが補なり。その補瀉の功を収るが迎随の手法によれり王燾(唐代、政治官僚)などが鍼はよく生人を殺す。死人を生かすことあたわず。と云いしを見て真に人を殺すの具なりと思ふ徒もありこれは不学無術にして妄りに刺を行い人を殺すことを戒めて鍼家を奮激して、その技を精妙ならしめんが為なり。


徐秋夫(南北朝時代の医家)が鬼腰を刺し秋梁公の宿瘤を去る。奇経に似たれども世史に記したればしいたりと云うばからず。いわんや即今感じ傷らる所の病を去るにその法を以ってせば何の難きことあらんや難経によく迎随の気を知って、これを調えしむべし。調う気の方必ず陰陽にありと云うことを弁じて所謂、迎随は營衞の流行経脈の往来をしる者なり。

その順逆に従ってそしてこれを取る故に迎随と曰く云えり許昌の滑氏(滑伯仁)が註にも迎随の法は補瀉の道なり。営衛流行経脈往来その義一なりと釈し四明の陳氏は迎はその気のそれまさに来たってそして盛んならざるを迎えるなり。

 

「病門」

 

傷寒

 

傷寒の病たるや、至危至殆にしてその治法を誤る時は死生掌(たなごころ)を反すより速やかなり。されば古今の方書にただこの一症の論治を以って巻首として心腹の諸疾と云えども雑病とせいするものまことにその故あればなり。然るを近世学無術にして刀圭を執るの徒己が功を奪われんことを恐れてこの症みだりに鍼刺を施すべからずと云うものあり庸俗またその説に惑うてその窟(あな)に陥ることを知らす。習俗の弊一日の改むべきに非ず。鍼家もその寃を雪(きよ)むること能わず。噫古聖人の鍼法を建つるやただテツ癖痛痺を芟除するが為のみならんや大賊を驅り深邪を除き陰陽を調じ水火を救うこれを鍼家の面目たりその汗を発し汗を止め胃を開き腸を通ずる豈蘓葛葉根の及ぶ所ならんや、その機を失せずその変に応じてこれを用いば功を収るや立って待つべし。既に試みてかつ効あるの数十穴を標出して後昆に示すの中余が一家の銘する所を以って記するものあり。これを庸工のその穴を慢易して心を用ゆることなからんを思うが故にして敢えて世を惑わし俗をたぶらかさんとにはあらず以下各門みなこれに倣う。

 

・悪風悪寒

取穴:風府、承霊、陶道、神堂、天泉

 

・無汗

取穴:勞宮、陽池、支溝、合谷、後谿、大陵、魚際、

   上星、瘂門、大杼、天柱、肺兪、風池、胆兪、命門、

   上脘、天池、曲泉、崑崙、至陰、委中、太谿、内庭、商谷

 

・汗止まらない

取穴:肺兪、心兪、膈兪、後頂、中府、欠盆、衝陽、大都、玉沈、

   然谷、湧泉、大敦

・通治

取穴:夾谿、風池、懸釐、肩貞、大椎、少海、然谷、太谿、通里、

   中脘、膈兪、勞宮、陽谿、間使、天宗、巨闕、天井、委中、風門、

   腎兪、中衝、関元、曲池、三間、支正、有神(?)、期門


 中風

中風の病、許多の名條ありと云えども卒厥頓死の外、日を経ざるものは皆よく治すべし。もし年月を超えたるものは再造の功を成すこと難し。世俗これを治するにただその病状の顕然たる所のみを攻めるを以って却て凝結の患を致す。たとえば湯へ釜中に沸くが如きこれを止めんと欲せば水を加えんよりは薪を減するに如ず、その病まざる所を救うて血気を流通せしむればその功、半ばに居る房役を慎まざれは必ず一簣の功を闕く。これを禁するを以って急務とすべし。

 

・卒厥人事を省りみず(倒れ意識が戻らない)

取穴:臨泣、心兪、陰蹻、隠白、大敦、巨闕、金門、大口(?)、百会、

   気関(?)、厲兌、天府、亦上(?)

 

・偏枯(半身不随)

取穴:列缺、下関、地倉、迎香、環跳、肩髃、曲池、照海、崑崙、委中、

   大巨、金泉(?)

 

・痰涎壅盛(ヨダレを垂らす)

取穴:不容、本神、浮白、天相(?)、絲竹空、下廉、商丘、廉泉、庫房

 

・気息短少(息が荒い)

取穴:神門、期門、天突、天相(?)天府、華蓋、水突、陰紋(?)、

   腎兪、

 

・舌緩まって語らず(麻痺による言語障害)

取穴:風府、太乙、瘂門、廉泉、風池、三里、陰谷、祖骨

 

・舌根強急言語さわやかならず(喉や舌の委縮による発語障害)

取穴:天突、大陵、風府、言戸(?)、風池、関衝、廉泉、曲泉、竅陰、

   大迎、大鐘、陽谷、少沢、商丘

 

・喜怒悲笑、常になし(無表情)

取穴:勞宮、心兪、天井、日月、極泉

 

・欠伸止まらず(あくびが止まらない)

取穴:内庭、背兪、腎兪、三里

 

・通治

取穴:陽関、心兪、間使、天府、尺沢、足眼(?)、曲池、百会、風府、

   完骨、水溝、金角(?)、地倉、三里、巡水(?)、聴会、

   山水(?)、肩髃、天窓、至陽、列缺、勞宮、風市、絶骨、大椎

   肝兪

 

瘧疾

 

かい痁(おこり)の症、華人これを論じこれを治する法方傷寒につげり本朝の俗古来符呪厭術(まじない)を以って治するもの多し、然れども少艾(若い女性)、血気充実せるの時は人を害することなし。もし四十以上に及ぶものは早くその邪を駆らざれば䇮苒して癒えず終に救う事あたわざるに至る。少艾の時と云えども飲食を節にせされば痃癖を生じ房室を慎まざれば勞瘵(ろうさい:肺浸潤、肺結核)の端を発す。或いは下痢を兼ねるものは必ず鬼籙(過去帳)を免れず婦人最も紳を用ゆべし。

 

通治

取穴:風池、大椎、陶道、意喜、天枢、神門、少府、経渠、商陽、偏歴

   陽谿、液門、完骨、後谿、陥谷、有神(?)、臨泣、内庭、前谷、

   少沢、中封、照海、太谿、公孫、申脉、中脘、曲池、至陰、八会

 

大小便秘

 

人の体は飲食をもって根本とす。飲食を腹に入って自然に消化しその精液肌肉骨髓に散布し百年の運用をなさしむカス、糞となり濁水尿となり日夜に通利することが通常のこと。もし腸中に熱を生ずれば大便秘渋して通じず一気留滞しれば小便頓閉す。通利の薬石ありといえども速やかに前兆を得ること能はず。大便なお日を延ばし小便頓閉し如き時を待つして死するもの多しこれを救いの術、鍼にあらざれれば能はず。まず治ると慰諭して気を通暢せしめ、そして後に鍼を下せばその効き目、影響の如し平素よくその要穴をその通りにして臨んで狼狽することなかれ。

 

・大便不通

 取穴:崑崙 肓兪 石関 承山 太谿 太衝 大敦 石門 大鍾

    会陰 大腸兪 丹田(関元) 魂門 曲池 中脘 下脘

    天相(天宗のこと?) 長強 白環兪

 

・小便頓閉

 取穴:曲泉 関元 大敦 大巨 横骨 委中 行間 三里 少府

    陰陵泉 曲骨 京門 大衝 三陰交 会陰 石門 陰交

    湧泉 膀胱兪 水上(?) 心兪 小腸兪

    

目疾諸症

 

人の双眼は天の両曜に比せり一身の精華ここに集まって明をなす。されば一日夜の間にして夢寝の外斬時もこれを措くこと能ず。ここを以て外寒暑風雨に傷られ、内飲食嗜欲に役せらし萬種の病を生ず。その根を結ぶこと久しきが故にこれを芟除することもまた容易ならず。その害をなすこと急ならざるを以て病家医家共にこれを忽かせにして終に蔓延して明を失うに至る。その芽を生ずるの時に当たっては約これを去らば何ぞ無用の人とならんや。余これが為に十餘條の病目を区別してかつて歴試する所の要穴を録し慇懃に告示す内障の一症最も治し易からず、直ちに眼中を刺して膿血を去ることあり。老手にあらざれば能し難し誤り刺して人を傷ることなかれ。

 

・風眼

 取穴:月骨(大きく血を取る) 百会(血を取る) 肺兪 風府 

    風池 三里 湧泉 

 

・青盲雀目(青盲=緑内障、雀目=夜盲症=とりめ)

 取穴:睛明 肝兪 膽(たん) 合谷 三間

 

・内障(そこひ=緑内障や白内障)

 ※内障“皆有翳在黑睛内遮瞳子而然”

 取穴: 絡却 蠺頭(さんとう) 目窓 合谷 商陽 貫明鍼

 

・赤脈血の如し

 取穴:承泣 四白 陰都 気穴 魚際

 

・目痛

 取穴:玉沈 太淵 至陰 頭維 絲竹空

 

・翳蔽瞳子(えいへいどうし)

(※たまにかかるものと説明あり=ものもらい?、翳=影、蔽=おおい塞ぐ、瞳子=ひとみ)

 取穴:角孫 巨髎 陽白 少沢 月骨

 

・睫毛倒生(さかさまつげ)

 取穴:絲竹空 亦上 肝兪 齦交

 

・涙でて止まず

 取穴:心兪 肝兪 行間 神庭 臨泣 百会

 

・目潤

 取穴:承泣 地倉 攅竹 四白

 

・目脂(めやに)

 取穴:瞳子髎 陽白 肝兪

 

・目蔑(ただれ)

 取穴:肝兪 胆兪 齦交

 

・流流視ることできず

 取穴:上星 脳戸 百会

 

・目反上張(目のひっくり反えり)

 取穴:申脉 本神 大都 三間 蠺頭(?)

 

・直視(目見つめる)

 取穴:玉沈 絲竹空 神庭 肝兪

 

・目暗まず(?)

 取穴:大迎 通天 合谷

 

眩暈

眩暈の症、古人の論ずる所、大なる異議なし。気塞がって卒然に発するものあり。痰火あるもの平常にこれを患うことあり。よくその因を原子てこれを刺すべし

 

通治

 取穴:神庭 顖会 前頂 百会 五処 正営 風池 本神 風門

    三焦兪 意喜 申脈

 

口鼻出血

吐血と鼻血とその症異なると云とも沸騰発激(沸き上がる程激しい)して患を致す所以みな同じ風の波浪を起こすが如し風穏やかなしは波自ら止む。口鼻の出血もまた然り。その気を平かならしむれば、その血たちまちに治まる。咳血唾血等の症に至ってはその本病中に就いて斟酌してこれを治するべし。故にここに談せず。

 

通治

 取穴:天府 庫房 心兪 上星 顖会 風府 滑肉門 紫宮 瘂門

    曲差 素髎 兌端 迎香 禾髎 郄門 不容 京門 合谷 承満

    陰郄

 

落架風(おとがいはずれ=下顎脱臼、顎関節症)

この症速やかに手を下さざれば輔骨(おとがい)の開節腫痛して功を

 外科に奪われる。鍛練老成の人にあらざれは治すること能はず。よく慮を加えて可なり。

 

通治

 取穴:通谷 天相 肝兪 風府 風池 曲池 合谷 巡水 聴宮 下関

 

   

虫牙

牙歯の腫痛する虫痛あり。気痛あり。熱痛あり。走馬牙疳の症の如き或いは人を殺すに至る。然れどもその係る所みな同じ。その中、虫痛最も多きが故にこれ名目とす。諸症の主穴下條の中に在り斟酌して鍼を施すべし。

 

通治

 取穴:正営 天衝 浮白 完骨 角孫 大迎 耳門 少海 偏歴 

    三間 四瀆 衝陽

 

息肉

この症、婦人に最も多し早く治すれば手に従って瘥(癒)ゆ既に時月を経たものは別に燔鍼を用いることあり。鼻癰鼻齄また左の穴中に於いて採用すべし。

 

通治

 取穴:上星 曲差 素髎 齦交 迎香 禾髎

 

喉痺

咽喉は気息飲食の大路なり。姦賊(心ねじれた者)その間に生ずれば必ず生命を損なう豈これを忽せにすべけんや一般疾間粟粒の如きものを生ずることあり。世俗大いに咳してこれを破り血を去れば癒ゆ。これ痺に類して痺にあらず。その真痺に至って甚治し易からず腫れをなし痛みをなし膿をなし孔をなし終わりにして倒れるに至る。これその人の病を軽んずつことへの症を弁ぜざることによれり我黨よく心を用いよ。


通治

 取穴:扶突 温溜 合谷 二間 三間 気関 璇璣 華蓋 気舎

    通里 陰門 少商 天甲(?) 天乙(?)


瘰癧(るいれき)

瘰癧の名まことに誣(いつわり)がたし、これを治すること一朝一夕の能する所にあらず治すること、まさに腫塊を生ずるの時にあり、もし潰爛して膿水を流出するものは必ず治せず馬刀気腫結核等の目あれども皆この類症にしてこれを治するの法異なることなし。下條の諸穴を按察してこれを用いるべし。


通治

 取穴:欠盆 少海 臂臑 背兪 陥谷 天窓 風池 環鍼(?)


轉筋(てんきん)

これ怱卒(突然の)の病にして、よく心腹の患をなす。鍼家の急務たり幼学これを勉めよ。


通治

 取穴:至陰 附陽 陽関 大杼 承山 条口 解谿 金泉(?) 四白


気絶して蘇らず

気絶数症なり。眩倒して不省なるものあり。逆上して昏迷するものあり。

驚懼して失神するものあり。流俗一概にこれを論し、これを治す大いに誤りこと云うべし。その所因を詳審にせざれば、これを刺して却て精神錯乱して魂魄守りを失い、たちまちに寃鬼となる。天数いまだ尽ざるの人一時事に触れて昏迷するのみ。よく治するにその法を以ては何ぞ蘓活せざることを患へんや数症を区別して非命の死者を起こさしむるものなり。


・魘死失神(怯えて倒れる)

 取穴:僕参 間使 湧泉 足蛇定(?) 豊隆 崑崙


・鬱結壅塞

 取穴:百会 山水 手蛇定 天宗


・積癖上衝

 取穴:章門 責口 三焦兪 背兪


・病後少気

 取穴:石門 天枢 三里 蠺頭


・婦人血暈

 取穴:水溝 至陰 三陰交 亦上


通治

 取穴:気海 魂門 天枢 厲兌


婦人産前後の諸症

 

婦人の疾病丈夫に異なることなし、ただ産前産後の諸症に至って同じからず。古今、これがために多種の名状を分別してこれを論治すれども畢竟天賦の薄弱(生まれてから死ぬまでの体の弱さ)なると保養の不節とによれりこの意を広充してこれを治せばどのようにして功を収めざらんや。故に繁きを刈る類せるを省きて急要なるもの数件を標出す。その分娩の難きや横生・逆生等の異なるあれどもともにこれ難産たれば治法もまた同じこの条文について取捨すべし。

 

・子、心を搶く(胎児が母体の心臓をつっつく)

 取穴:衝門 京門 泉門(?)

 

・胎を墜ちんと欲っす(堕胎)

 取穴:章門 曲池 山水(?)

 

・催生(生まれることを促す=陣痛促進)

 取穴:腎兪 三陰交 合谷 責口(?)

 

・難産

 取穴:肩井 期門 支溝 中渚 大敦 行間 三陰交 合谷

    三里

 

・胞衣下らず(胎盤が出てこない)

 取穴:百会 石門 関元 崑崙 三陰交 亦上(?)

 

・悪血下らず

 取穴:合谷 三陰交 至陰 天相(?)

 

 乳病

 乳病は婦女の重患にして、霜を踏んで慎まざれば堅き氷に至る様な

腫れものを治すべし。岩となれば手を懐にして倒れることを待つこれを恐れこれを慎め。

 

通治

 取穴:臨泣 膺窓 乳根 梁丘 天谿 衝門 三里

 

※恐らく乳病というのは乳腺炎などで乳房が張って硬くなった状態のことと解釈してます。

 

小児驚風

小児の病多くは乳食の為に傷られ腹中に虫を生じて種々の癖疾をなす。これを治するに日を以てせざれは腸胃脆弱なるが、故に却って命を促すことあり。ただ驚風の一症卒然として発し倐爾として至る急慢の別馬脾天吊の異なるありと云うども等しくこれを治すること速やかならざれば必ず夭殤す物に感じ、事に触れ大驚き大怖れの後、癲癇に変じたるものはまたその所因についてこれを治すばし。

 

・直視噤口

 取穴:百会 曲鬢 兌端 大迎 三里 巡水(?)

 

・吐舌収まらず

 取穴:然谷 天突 陽谷 温溜 太乙 言戸(?)

 

・角弓反張

 取穴:五処 筋縮 命門 金門 金泉(?) 百会

 

通治

 取穴:臨泣 曲沢 列缺 商丘 陽交 陰白 百会 下廉 僕参

 

 

金瘡跌撲血流れ止まらず

 

刀剣の断つや鎗戟の刺すや、或いはつまずき、或いは撲つ先ずその精神を転動し血脈を沸溢せしむ。故に創痍(きずぐち)小しきなりといえども血出て止まざるを致す。その気を平かにすればその血、自らを定まる肉分を傷るものはその傷大なりとも患うに足らず。臓腑を損する時は眇然(小さい様)たるものも命を落とす。よくこれを弁知すべし。巻中に論ずる所の刺を行って後、鍼孔血出て止まざるものまた比例による。ただし傍人をして孔口を封ぜしめ置いて刺を施すを良とす時に臨んで彷徨し児女のそしり笑いを買うことなかれ。

 

・半身以上創つく者

 取穴:委中 陰陵泉 金角 陽陵泉 陽池

 

・半身以下創つく者

 取穴:大陵 神門 三陽絡 海生 支正

 

縊(首くくる)

魘溺(臆病、恐れ、おぼれ)の三は死して吊るせざるの訓あり。いわんや自縊をや。然れども方技を以て妻や孥(家来)を育するものいながらこれを見て救わざるに忍びんや邦俗悒鬱奮懣して情を遣る所なきが故に身を殺して自ら快くするもの。比々として有り老親天を怨んで堂に泣き妻子人をとがめて、室に哭すまた悼ましからからずや。これを救うて天地の中に立ちしむる惻隠の端と云うべきか。その日を踰え宿を経るものは治せず。身を翻して一二時を出ざるものは十全の功を収むべし切に縄子を断截して死者をして地に堕とさしむることを忌むもしかくの如きものは刺を行うに及ばすと知るべし。

 

通治

 取穴:人中 天容 天窓 百会 祖骨 大椎 三里 湧泉 気関

 

溺(水におぼれる)

これまた救うこと速やかなれば必ず活く。先胸間心下を按摩して水を去しめ、そして後に鍼を下すべし。庸俗病者の足を捉って逆さまに懸けて水を吐せしむこれによって臓腑を転倒して魂魄を放散せしめ気息なお通ずるものも死に至らしむることあり。その覆轍に倣はざれ。

 

通治

 取穴:会陰 百会 大口 中脘 粱門 天枢 関元 三里 陰白 大敦

 

妖精人に着く

狐狸の老精化して人間に在り。妖をなし、魔をなし、人をたぶらかす。鼠狼や老猫や及び虺蛇(マムシ)蜘蛛なども年を経たるものは、よく人を魅す大人、君子、壮子、健夫は犯すこと能はずと云えども怯夫愚婦の如き、或いはその蠢愚に依り、或いはその淫心を伺い精を奪い神を蕩し必ず人を病しむ。早くこれを去ざれば魂魄舎を守らず癲となり、狂となり、遂に廃人となる。それ妖精の人を犯す心主、恍然として拠り所を失い腠理空虚して隙を生ず。その初て感着するや、一般風寒の感入するが如し漸々に転送して表より、裏に入り、裏より腸胃に入り、腸胃より骨髓に入る。或いは塊をなし、或いは痛みをなす。眼晴常人と同じからず言語錯乱して種々の奇怪をなす。鼠狼老猫その余の妖をなすものみな己が天性の形態を現わす。これを見てその類を分つと云えども、その感じて病める所以は一揆なり。これを治するにその法を以てせば万物の霊ある獣類の為にたしなめられんや。ただ世間愚夫愚婦この理を弁ぜす僧に頼んで佛に祈り巫を招いて神を祈り病者をして恐怖疑惑せしむ。その生気和調することを得ざるが、故に腠理閉塞して妖邪出去こと能わず